くび(のど)の前のところが
少しはれているように感じられるのですが、
大丈夫でしょうか?
まず、目で見てみましょう。これは私たち医師は視診と言っています。診療室で患者さんがネックレスや鮮やかな色調のネクタイを身につけておられる時、注目がそちらにとられてしまい、前頚部の異変を見逃しやすいので、日頃から十分気をつけています。またスカーフを巻いた女性や高いカラーのワイシャツを着ている男性では甲状腺が隠れてしまっていることもあるので、私は注意して診察しています。
最初にのどぼとけ(喉仏)の位置を確認します。これは甲状軟骨と呼ばれる骨で、外国ではAdam's apple(アダムのリンゴ)とも呼ばれています。というのは、甲状軟骨は男性(アダム)のほうが女性(イブ)よりも大きく目立っているからです。また、男性で筋肉
質のかたでは前頚筋すなわち胸鎖乳様筋が肥大しているのを「甲状腺のはれ」と錯覚することもあります。
最近の若い女性は体型的に首が細く長くなる傾向があります。さらに頚椎と呼ばれる骨が前方へ彎曲しているかたも少なくありません。これは白鳥の首に似ていることから“Swan neck(スワン・ネック)”と呼ばれたり、イタリアの画家モジリアニの描いた女性の首にも似ているので“Modigliani syndrome(モジリアニ症候群)”と呼ばれたりし、甲状腺のはれとまちがいやすいので注意が必要です。
ではつぎに、指で触れてみましょう。これは私たち医師が触診と言っています。甲状軟骨(喉仏)の下に固い輪のように触れるのが輪状軟骨です。そのすぐ下に甲状腺の一番上の部分が触れます。形は蝶々(バタフライ)に似ており、左葉と右葉に分かれており、大きさや色は例えると、マグロのサシミひとつ分×2 切れで、重さは全体で10~15gです。つぎに、指に触れているものが甲状腺かどうか確かめるため、ゴクンとつばを飲み込んでもらいます。 甲状腺はそのとき上下に移動しますので確かめることができます。もし上下に動かなければ、触れているものは甲状腺ではないということになります。
おわりに、表A・Bに前頚部のはれる病気を挙げました。これらの病気のうちどれであるかを判定するのが私の役目であると思っています。
表A
前頚部にしこり(腫瘍)を形成する病気。外来診療において多い順番で示します。病名のあとの★は甲状腺の病気です。甲状腺腺腫(adenoma) ★
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前頚部リンパ節腫大
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甲状腺嚢腫(cyst) ★
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腺腫様甲状腺腫(adenomatous goiter) ★
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甲状腺癌(carcinoma) ★
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副甲状腺嚢腫(parathyroid cyst)
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前頚部皮下脂肪腫(lipoma)
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亜急性甲状腺炎(subacute thyroiditis) ★
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正中頚嚢腫(cyst)
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プランマー病 ★
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副甲状腺腺腫(parathyroid adenoma)
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甲状腺原発悪性リンパ腫(malignant lymphoma) ★
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急性化膿性甲状腺炎(pyriform sinus fistula) ★
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リーデル甲状腺腫(Riedel's) ★
表B
甲状腺がびまん性(全体)にはれる病気。多い順番で示します。
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橋本病(慢性甲状腺炎)
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バセドウ病(甲状腺機能亢進症)
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単純性甲状腺腫
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多発性小結節性甲状腺腫
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ヨード摂取不足による甲状腺腫
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TSH産生下垂体腫瘍
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レフェトフ(Refetoff)症候群
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ペンドレッド(Pendred)症候群